私が音楽を聴き始めた時はLP盤の全盛期でした。
 初任給が5万円くらいの時代、LPは2,000円ほど、
 輸入盤は3,000円以上もしたと思います。
 どれにしようか何度も何度も考えて、
 やっとの思いで買ったのを憶えています。
 それにしてもLPの紙ジャケットは大きくて素敵でした。
  
  何年か過ぎて、「時屋」という小さなクラシック喫茶を
 始めることになったのですが、カウンターの隅にジャケットを
 立てかけて、日々、音楽を流し続けました。
  今、思い出しても、その時聴いたレコードが
 私の音楽観の背骨になっているようです。
  
  そんなLPの写真を見ながら、音楽の記憶を
 たどって行きたいと思います。 


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.11  アイドルを探せ

         シルヴィ・バルタン(vo

VICTOR SS-1476


 生まれて初めて、自分で買ったレコードが、このドーナッツ盤です。
たぶん、小学校の5〜6年生だったと思います。

 ラジオ大好き少年だった私は、毎日のように流れてくるこの曲に
すっかり参ってしまいました。
さっそく、お小遣いを握りしめてレコード屋さんへ...。
フランス語だという事も分からなかったのですが、毎日、何回も聞いて
そらで全部歌えるようになりました。

 その時のレコードは、とっくに無くしてしまいましたが
先日、なんと、友人が探し出してプレゼントしてくれました!
そう、そう!このジャケット!と、大感激でした。

 ラプエド プワネドセー

 .12  メンデルスゾーン 無言歌集

         ワルター・ギーゼキング(P)

COLUMBIA 33CX 1479


 
「音楽とは歌うことです!」中学の音楽の先生がいつも言ってました。
今でも自分にとっていい演奏とは、歌心があるかどうかで決まるようです。

 ギーゼキングの無言歌は、まさにピアノが歌います。
それも、かろやかに、はるか遠くへ思いをはせるように...。

 「春の歌」や、今の季節にぴったりな「五月のそよ風」など、思わず
口ずさみたくなるような素敵な曲集です。

 脚本家の向田 邦子さんが、自分の書いたテレビドラマで流れる音楽に
無言歌の「ヴェニスの舟歌」、それも必ずギーゼキングで、と注文を
付けたと言う話は、飛行機事故で亡くなられた後に知りました ...。
 
 しばらくCDショップで見かけませんでしたが、今年に入って
国内盤
が音も良くなって再発されました。お勧めですよ!

 .13  アフタヌーン イン パリ ( Afternoon in Paris


                        
ステファン・グラッペリ(vn)
 
テイチク UPX-61-P

 クラシック喫茶を始める時、ジャズが大好きな友人から
レコードを何枚か選んでもらいました。
 ジャズの事を良く知らない私は、ひとつだけ注文を付けました。
それは「お酒が美味しくなるレコードを!」でした。
 その時、選んでもらった中の一枚がこのLPです。

 ステファン・グラッペリはパリに生まれ育ち、当初はクラシックの
演奏家を志しました。その後ジャズ界に転向して活躍し、名アルバムを
残してくれました。
 
 スウィング感にあふれ、しかも叙情性に満ちたこのLPも、閉店後に
数え切れないほど聴きました。
 もちろん、今でもお酒の友として愛聴しています。

「ふらんすへ行きたしと思えども、ふらんすはあまりに遠し」
せめてはレコードをきき、きままに酒をのまん。
                                    (朔太郎さんごめんなさい)

 .14 フリードリッヒ.グルダ / リサイタル


フリードリッヒ・グルダ(P)

AMADEO  MO 1024

 先日、音楽評論家の黒田 恭一さんが亡くなられたとの記事が
新聞に載っていました。

 クラシック音楽を聴き始めた頃、それまでの堅苦しい評論と
違う、黒田氏の、みずみずしい文面に目を奪われました。

 このLPも雑誌に掲載された、氏のLP紹介欄で知りました。
グルダの奔放で、きらめくような装飾音が、とても新鮮に感じられ
「クラシックってこんなに自由でいいんだ!」と感動したのを
思い出します。

 その後も、ラジオやTVでの穏やかな話し方は大好きでした。
雑誌「サライ」のCD紹介のページは、毎号欠かさず拝見し
このH.Pの「CD手帳」にも何枚か登場しています。
クラシックからジャズ、ポップスや民俗音楽まで、ジャンルを
超えた本物の音楽を紹介してくれる、稀有な評論家でした。

 本当に素敵な方を亡くしました...。

 最後にNHK FM「20世紀の名演奏」のエンディングでの
黒田氏の言葉を引用させて頂きます。

「みなさま、どうぞ心穏やかにお過ごしください。」 

                 ご冥福をお祈りいたします

 

 .15 ベートーヴェン 弦楽四重奏 第7番 Op.59
                         「ラズモフスキー1番」


ブッシュ 弦楽四重奏団

COLUMBIA ML 4155

  ベートーヴェンの弦楽四重奏は、音楽評論などの
先入観もあり、なかなか手が伸びませんでした。

 クラシック喫茶を開店し、最初に買った四重奏のLPが
なんとカペーSQの14番!
少し聴いてから、しばらく手が伸びなくなったのは
言うまでもありません。

 時が過ぎたある日、お客さんがいない店でブッシュSQの
7番をかけてみました。
流れるような第一楽章に乗せられるように、最後まで
一気に聴き通せました!
その後は、初期、中期、後期と、さまざまな演奏家のLPを
手に入れて聴き、ようやくカペーの凄さも解りました。

 ブッシュSQの演奏を聴かなかったら、おそらく今でも
ベートーヴェンの弦楽四重奏は、遠い存在のままだったと
思います。 

 いつの日か楽風舎で、弦楽四重奏のコンサートを開きたい
ですねー。
 

 .16 モーツァルト  ホルン協奏曲 1番〜4番 K 412495


デニス・ブレイン(hrn)

ヘルベルト・フォン・カラヤン(cond
フィルハーモニア管弦楽団

COLUMBIA 33CX 1140

 夏の青空に浮かぶ雲を見ていると、この曲を思い出します。
デニス・ブレインのホルンは高く気ままに流れる浮雲。
まるで鼻歌を歌うような軽やかなホルンの旋律が続きます。

 このLPが録音されたのは1953年。
今から半世紀以上前ですが、いまだにこの演奏を
超えるものは聴くことができません。

 若きカラヤンとフィルハーモニア管弦楽団も
颯爽として見事です。

 私たちは早すぎるブレインの事故死によって
どれだけ大きなものを失ったのでしょうか...。
それより、この録音を残してくれた事を
心から感謝すべきなのかもしれません...。

.17 ベートーヴェン ピアノソナタ 第30番〜第32番 
                          Op.109Op.111


ソロモン (P)

EMI RLS 722

 ベートーヴェンのピアノソナタのなかでも
最後の三つ、30番、31番、32番は
ベートーヴェンの音楽、いや、すべての音楽のなかでも
際立った輝きを放つ作品だと思います。
 
 イギリス生まれのソロモンは、クラシックの演奏家としては
めずらしく、ファーストネームで演奏活動をしていました。
( フルネームは Solomon Cutner
 1953年に来日したそうですが、病気の後遺症のため
演奏活動は短く、レコードも多くありませんでした。

 初めてソロモンの演奏でこの三曲を聴いた時の感動は
今でも忘れられません。
 澄んだ響きの中に、明るい光が差し込んでくるような
演奏でした...。

その時一緒に聴いていた友は、もう光の先に行ってしまいました。

そういえば彼と行った最後のコンサートも32番でした...。

 

.18 モーツァルト ディベルディメント 1番/17番 K 136/334


ウイーン八重奏団

DECCA Ace of Diamonds SDD 251

 少し早いかも知れませんが、秋らしいジャケットを...。

 その昔、クラシック喫茶を開いていた頃、常連のお客さんと
モーツァルトの曲の中で、どの曲が一番モーツァルトらしいか
という、話題になったことを思い出しました。

 そのお客さんは、以前、女友達と同じ話になって
ピアノソナタ、ヴァイオリンソナタ、ピアノコンチェルト
クラリネット五重奏&コンチェルト...と次々に名前を挙げたら
「そんな完璧な音楽ばかり聴いて、今の自分がいやにならない?」
なんて言われたんですよ。と話してくれました。
さらに「私だったらディベルディメントが一番気楽でいいなー」とも。

 その話を聞いて、私はしばらく言葉がでませんでした...。
私自身も、モーツァルトの音楽が輝き過ぎて、眩しく感じられ
まったく聴けない時期があったことを思い出したからです。
そしてモーツァルトに順番を付けるという狭い話は、おしまいに...。


 ウイーン八重奏団のディベルディメントは正に、心かろやか。
澄んだ秋晴れの日にぴったりです。

.19 MEET THE BEATLES!


ザ・ビートルズ

東芝EMI EAS-70100

  レコード棚にこんなビートルズのLPがありました。

ビートルズが衝撃的に登場した時、私はまだ小学生でした。
当然レコードは買えず、このLPを買ったのは大きくなって
からだったと思います。

 解説によると日本で最初に発売されたLPだとか...。
ジャケットは2枚目のアルバム「WITH THE BEATLES」と同じですが
MEET THE
 になっていて、入っている曲も違っています。
今となっては貴重なレコードですね。

 あの当時、どんな音で聴いていたのかは、よく覚えていませんが
ジャケットを見ると、あの頃の胸の高鳴りだけは今でも鮮明に
よみがえります!

.20 J..バッハ ゴールドベルグ変奏曲 BWV 998 
            「弦楽三重奏版」

ドミトリ・シトコヴェツキー (vn
ジェラール・コセ      (va
ミッシャ・マイスキー    (vc

ORFEO S 138 851 A

 先日、コンサートで初めてゴールドベルクの弦楽三重奏版の
生演奏を聴くことができました。
全曲休憩なしで約80分!聴く方もですが、演奏者はさぞ大変
だったことでしょう...。素晴らしい、そして貴重な体験でした。

 このレコードが録音されたのが1984年、もうすぐCDに
取って代わられようとしている時にリリースされました。
ヴァイオリンのシトコヴェツキー氏が編曲したもので
G.グールドのゴールドベルク
にインスパイアされて
書き上げたとの事。

 久し振りに聴いてみると、各楽器が響き合い、音が重なり合って
独自のバッハの世界が広がります。

 レコードを聴いてコンサートに行く。
コンサートに行ってレコード(CD)を買う。
どちらも欠かせません...。


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